森山 正宗 もりやま まさむね
鹿児島生まれ、鹿児島育ち。親子三代のお湯割りファン。
鹿児島大学大学院農学研究課で醸造学や発酵学など微生物の働きを学んだ後、
薩摩酒造に入社。甘藷利用技術研究所主任研究員を経て、現職は商品企画課主任。
鹿児島では、宴会などの席でお湯割りをつくるのは若輩の仕事です。
といっても、芋焼酎をお湯で割ればでき上がり、
というワケではないのがお湯割りの難しいところ。
乾杯用のお湯割りは手に持ってもこぼれないようにグラスの7〜8割でつくるとか、
ご年配の方には薄めにするとか、宴の始まりと後半では濃さを変えるとか…
様々な配慮が必要です。お湯割りの基本は、飲む人のことを第一に考えること。
おいしいお湯割りで、人間関係もあたためたいものですね。
居酒屋などで、取っ手の付いたHOTドリンク用のグラスで
お湯割りを提供されることがあります。正直に言って個人的にアレはNG!!
熱すぎて飲めないですし、容量が多い分、飲み終わる頃には
せっかくのお湯割りが冷めてしまいます。また、飲んでみると薄い場合がほとんどです。
お湯割りは、温度と濃度のバランスが大切。お湯と芋焼酎を別々に出して、
自分の加減で飲ませてくれるお店をお勧めします。
個性的な香りが魅力の芋焼酎。特にお湯割りにすると、
甘く優しい香りがいっそう引き立ちます。
芋焼酎ファンには、香りに癒されるという方も少なくありません。
芋焼酎の香りの中には、リナロールという香気成分が含まれています。
これは薔薇やラベンダーなど、植物の香りを構成する物質で、
アロマテラピーでは抗不安作用、鎮静作用などがあるとされています。
つまり、芋焼酎は飲まなくても、その香りを嗅ぐだけでリラックス効果があるのです。
グラスでお湯割りをつくる場合は、まず先にお湯を注ぎ、その後で芋焼酎を合わせる。
逆ではいけません。お湯を先に入れることで、お湯の温度を下げ、
グラスをあたためることができます。そこに常温の芋焼酎を加えると、
お湯と芋焼酎の温度差で自然に対流がおき、かき混ぜなくても温度や濃度が均一になるのです。
芋焼酎の温度とお湯の温度から、目標とする温度(人肌から42〜3℃程度がオススメです。)
のお湯割りの作り方をグラフにしてみました。
例えば、芋焼酎の温度が25℃で6(焼酎):4(お湯)を作る場合、
お湯の温度を60〜70℃にすれば、飲み頃(41〜42℃)のお湯割りができます。
同じように、芋焼酎の温度が15℃の場合は、お湯の温度は80〜85℃が適温だと言うことがわかります。
5:5と4:6の場合も同様ですので、グラフを参考に、自分好みの温度や濃度のお湯割りを作ってみてください。
芋焼酎は、前割りが旨いと言われています。
前割りとは、あらかじめ焼酎と水を好みの割合に混ぜ合わせて数日間寝かせたものを、
直前に温める飲み方です。かつて鹿児島では、来客や宴会の予定に合わせて、
前割りを準備し、当日に旨い焼酎でもてなしていました。
飲み比べるとわかりますが、前割りした芋焼酎は、やさしくまろやかになります。
分子レベルで説明すれば、水で割った芋焼酎を寝かせることで、
アルコール分子の周りを水の分子が取り囲み、
いわゆる水分パック状態になることがわかりました。
つまり、これによりアルコールの刺激が抑えられ、味に丸みがでるというわけです。
もちろん一昼夜寝かせただけでもまろやかになりますが、
できれば、3日から1週間くらい我慢してお飲みいただくことを、強くお勧めします。
鹿児島では、一日の終わりに飲む焼酎のことを“ダレヤメ”と言います。
“ダレ”は疲れ、“ヤメ”は止めるという意味で、今日一日の仕事の疲れを癒し、
明日への活力を養うわけです。もちろん私も、前割りした芋焼酎を黒ジョカで温めて
“ダレヤメ”を楽しんでいます。とはいえ、実際にお湯割りを作るのは、妻におまかせ。
私がお風呂に入っている間に、私好みの濃度のお湯割りを準備してくれます。
その作り方は。新しく買った焼酎を、あらかじめふたつの容器に分け、
同量の水を加えておきます。
水にはこだわりがあり、地元・鹿児島のミネラルウォーター(軟水)を使います。
これを、3日から1週間ほど、キッチンの片隅で寝かせて、適量を黒ジョカで温めます。
私の場合は、この5:5のお湯割りを毎晩2合程度、夫婦二人で楽しんでいます。